2021年12月25日土曜日

やっかいなスタイルガイド、おかしなスタイルガイド

 仕事を受けると、スタイルガイドが支給されることがあります。スタイルガイドとは、表記のルールを指定したものです。たとえば、

・カタカナ複合語

barcode reader を「バーコードリーダー」とするか、「バーコード△リーダー」とするか、それとも「バーコード・リーダー」とするか。

△ は半角スペースを表します。「・」は中黒(なかぐろ)と呼ばれます。半角スペースも中黒も使用しない表記法を私は「直(じか)つなぎ」と呼んでいますが、これは私だけの呼び方のようです。

・全角文字と半角文字の間に半角スペースを挿入するかどうか

・長音(「ユーザ」か「ユーザー」か、「プリンタ」か「プリンター」か)

・数値と単位の間に半角スペースを挿入するかどうか

・UI の表記

UI は User Interface のこと。画面に表示される用語のことです。

たとえば、View menu を訳す場合、

[表示] メニューというように、半角角括弧で囲む方法

「表示」メニューというように、鍵括弧で囲む方法

[表示(View)] メニューというように、英日併記で表記する方法

などがあります。

このほかにも、スタイルガイドにはさまざまなルールが記載されています。場合によってはスタイルガイドが支給されず、Microsoft のスタイルガイドに準拠するように指示されたり、似た製品の過去の日本語版ファイルが支給されて、それに準じるように指示されることもあります。

スタイルガイドは、ソースクライアントが定めている場合が多いのですが、翻訳会社指定のスタイルガイドというものもあります。

★厄介なスタイルガイド

カタカナ複合語の表記ルールで厄介なのは、「合計 13 文字までは直つなぎ、14 文字以上は半角スペースを挿入する」などというルール。

たとえば、上記の例で言うと、barcode reader は「バーコードリーダー」ですが、hand-held barcode reader は「ハンドヘルド△バーコード△リーダー」としなければなりません。

翻訳作業中に、いちいち文字数を数えなければならず、なかなか厄介です。

★おかしなスタイルガイド

IT 関連のマニュアルでは、よく手順説明が登場します。たとえば、

1. ファイルをダブルクリックします。

ファイルが開きます。

2. [ファイル] > [名前を付けて保存] を選択します。

[名前を付けて保存] ダイアログボックスが表示されます。

という手順説明があったとします。あるソースクライアントのスタイルガイドでは、上記の番号付きの部分を

1. ファイルをダブルクリックする

2. [ファイル] > [名前を付けて保存] を選択する

というように、「である体」で訳して、句点を付けずに訳さなければなりません。

私としては、これはかなり奇異に感じるのですが、ソースクライアントのスタイルガイドに異議を申し立てても仕方ありません。

厄介なスタイルガイドでも、おかしなスタイルガイドでも、それにきっちり対応して訳文を仕上げるのが、翻訳者という職人の仕事・・・と思っています。

いつもいつもソースクライアントの指示に唯々諾々と従っているわけではありませんが。あまりに奇異に感じたり、不自然に感じる場合や、参考資料として支給されたファイルで表記に統一性がない場合などは、「おそれながら・・・」とお伺いを立てることもあります。

Trados のエラー

最近は Memsource、Translation Workspace XLIFF Editor、XTM、ATMS などを使用する案件が続きましたが、 久しぶりに Trados 案件が来ました。

ある朝、起きてみると、Windows Update があったようで、マシンが再起動されていました。Windows にログインして Trados を立ち上げ、作業中のファイルを開こうとすると、次のようなエラーが表示されて、ファイルを開くことができません。

SelectedTab cannot be set before the pane has been added to a panes collection

Google 検索で見つけた対処法は、[表示] メニューの [ウィンドウのレイアウトを元に戻す] をクリックすればよいというもの。10年も前の投稿でしたが、効きました!

表示されたエラーを読んでも何のことかわからないし、Trados を再起動しても、Windows を再起動しても治らないし、最悪、Trados の再インストールか、と焦っていたので、本当に助かりました。

これを機に、Trados Studio 2019 SR1 を SR2 にアップデートしました。

2021年4月23日金曜日

最近使ったCATツール

 CAT ツールとは、Computer Assisted Translation ツールのことで、日本語では翻訳支援ツールと呼ばれています。代表的なのは Trados ですが、ほかにもさまざまな CAT ツールがあります。

最近の仕事で使用した CAT ツールは、Trados、Translation Workspace XLIFF Editor、Memsource、memoQ、XTM です。

このうち、自分で購入したのは Trados だけです。その他はすべて、翻訳会社からライセンスを支給されました。

初心者の方で、CATツールに慣れておきたい方には、Trados の30日間無料トライアル版か、Trados Studio Starter を使ってみることをお勧めします。

フリーソフト、つまり無料の CAT ツールもありますが、仕事で使ったことはありません。

翻訳者がなぜ CAT ツールを使うかというと、翻訳会社からツールを指定されるからです。「この案件は〇〇(CAT ツール名)を使用する案件です」という感じで。ですから、実際の仕事で指定される可能性のほとんどないフリーソフトを使うよりは、Trados に慣れておく方が良いと考えます。

履歴書に「Trados の使用経験あり」とか「Trados Studio 2021 所有」とか書いておいた方が、フリーソフトの名前を書くよりアピールできますし。

Trados をある程度使ってみれば、CAT ツールとはどういうものか理解でき、他の CAT ツールもすぐに使えるようになれます。

★CAT ツールと機械翻訳は違う

初心者さんの中には CAT ツールと機械翻訳(Machine Translation:MT)を混同している方もいるようです。

CAT ツールは、あくまで人間が翻訳します。原文(Source)に対する訳文(Target)を入力していきます。すると、その原文と訳文のペアが翻訳メモリ(Translation Memory:TM)としてデータベース化されて蓄積されていきます。以前に翻訳した原文と似た原文があると、「よく似た原文が以前にありましたよ。そのときは、こう訳しましたよ」と教えてくれるのが CAT ツールです。

機械翻訳は、人間ではなく翻訳エンジンが翻訳します。Google 検索で英語など日本語以外のページがヒットすると、検索結果一覧に「このページを訳す」と表示されることがあります。「このページを訳す」をクリックすると、英語のページが日本語に翻訳されて表示されます。これが機械翻訳です。自動翻訳とも呼ばれます。

★MTPE

機械翻訳の話のついでに書いておくと、翻訳会社から「翻訳ではなく MTPE」とか「MTPE を含む翻訳」という案件を打診されることがあります。

MTPE とは Machine Translation Post Edit の略です。機械翻訳された訳文を修正する作業を指します。MTPE の料金は、翻訳会社によって違いますが、翻訳単価の7割くらいです。つまり、たとえば、翻訳単価をワードあたり 10 円で登録している場合、MTPE 単価は 7 円くらいです。翻訳単価が 8 円の場合、MTPE 単価は 5.6 円くらい。