仕事を受けると、スタイルガイドが支給されることがあります。スタイルガイドとは、表記のルールを指定したものです。たとえば、
・カタカナ複合語
barcode reader を「バーコードリーダー」とするか、「バーコード△リーダー」とするか、それとも「バーコード・リーダー」とするか。
△ は半角スペースを表します。「・」は中黒(なかぐろ)と呼ばれます。半角スペースも中黒も使用しない表記法を私は「直(じか)つなぎ」と呼んでいますが、これは私だけの呼び方のようです。
・全角文字と半角文字の間に半角スペースを挿入するかどうか
・長音(「ユーザ」か「ユーザー」か、「プリンタ」か「プリンター」か)
・数値と単位の間に半角スペースを挿入するかどうか
・UI の表記
UI は User Interface のこと。画面に表示される用語のことです。
たとえば、View menu を訳す場合、
[表示] メニューというように、半角角括弧で囲む方法
「表示」メニューというように、鍵括弧で囲む方法
[表示(View)] メニューというように、英日併記で表記する方法
などがあります。
このほかにも、スタイルガイドにはさまざまなルールが記載されています。場合によってはスタイルガイドが支給されず、Microsoft のスタイルガイドに準拠するように指示されたり、似た製品の過去の日本語版ファイルが支給されて、それに準じるように指示されることもあります。
スタイルガイドは、ソースクライアントが定めている場合が多いのですが、翻訳会社指定のスタイルガイドというものもあります。
★厄介なスタイルガイド
カタカナ複合語の表記ルールで厄介なのは、「合計 13 文字までは直つなぎ、14 文字以上は半角スペースを挿入する」などというルール。
たとえば、上記の例で言うと、barcode reader は「バーコードリーダー」ですが、hand-held barcode reader は「ハンドヘルド△バーコード△リーダー」としなければなりません。
翻訳作業中に、いちいち文字数を数えなければならず、なかなか厄介です。
★おかしなスタイルガイド
IT 関連のマニュアルでは、よく手順説明が登場します。たとえば、
1. ファイルをダブルクリックします。
ファイルが開きます。
2. [ファイル] > [名前を付けて保存] を選択します。
[名前を付けて保存] ダイアログボックスが表示されます。
という手順説明があったとします。あるソースクライアントのスタイルガイドでは、上記の番号付きの部分を
1. ファイルをダブルクリックする
2. [ファイル] > [名前を付けて保存] を選択する
というように、「である体」で訳して、句点を付けずに訳さなければなりません。
私としては、これはかなり奇異に感じるのですが、ソースクライアントのスタイルガイドに異議を申し立てても仕方ありません。
厄介なスタイルガイドでも、おかしなスタイルガイドでも、それにきっちり対応して訳文を仕上げるのが、翻訳者という職人の仕事・・・と思っています。
いつもいつもソースクライアントの指示に唯々諾々と従っているわけではありませんが。あまりに奇異に感じたり、不自然に感じる場合や、参考資料として支給されたファイルで表記に統一性がない場合などは、「おそれながら・・・」とお伺いを立てることもあります。